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文学・文芸 > 小説

プチ小説 納涼探偵 P その11

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プチ小説 納涼探偵 P その11

by ま ぜんた

  • iコンセプト

    プチ小説

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         その11 青い雨音

     ――――土砂降りの雨の夜、事件は起きた。

     僕はとんでもない事をしてしまった。
     今日の午後、探偵社の先輩のアシスト中、カメラの
    レンズ交換を4~5回繰り返したろうか。一番小さな
    望遠レンズが無いことに社で気付いた。
     望遠レンズ。50万円もする代物を紛失したのだ。
     先輩の顔が青くなるのを眼前にして、ビニール傘と
    懐中電灯を手に土砂降りの中へ飛び出してきた。
     そんなこんなで、真夜中の公園に一人の不審者が
    誕生した。
    「はぁ、雨ガッパも着てくるんだった・・・。」
     草むらを照らしながらのひとりごとである。

    ―――と、ビニール傘をトントンとたたく音がする。
     
     感覚で分かる。あいつである。僕の悩みの種。
    幽霊である。
    「今、忙しいんだ・・・。」

    「レンズをお探しですね。全部見ていました。」

    「ん?・・・全部?」
     ふり返ると彼女が立っていた。傘もささず、土砂
    降りに濡れることも無く、懐中電灯に照らされる光
    を眺めている。
    「はい、あなたの仕事ぶりをずっと見ていました。」

    「どこで落としたか分かるの?」

    「それが、見ていないんです。」
     からかう様な彼女の言葉にムッとして、草むらに
    分け入りながら舌打ちをしてみせた。
    「ただ、一箇所だけ私が入れない場所があるんです。
    ・・・多分そこかと。」
     入れない?場所?結界的なものかな?
     彼女を見ると、うつむき顔が赤い。
     ピンときた。彼女は幽霊であるにもかかわらず、
    風呂上がりの僕を見て悲鳴を上げるのである。普通、
    悲鳴を上げるのは僕のほうだ。

    ――――トイレか・・・。

     それは、巾着袋に入って棚の上にあった。中のレ
    ンズも無事であった。
     心配していた先輩も安堵していた。

     これで二度目か・・・。
     二度も救われてしまっては、恩というものを返さ
    ねばならないか。

     パラパラとビニール傘に跳ねる水の音が、和らい
    でいくのを感じながら家路についた。

                つづく。

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         その11 青い雨音

     ――――土砂降りの雨の夜、事件は起きた。

     僕はとんでもない事をしてしまった。
     今日の午後、探偵社の先輩のアシスト中、カメラの
    レンズ交換を4~5回繰り返したろうか。一番小さな
    望遠レンズが無いことに社で気付いた。
     望遠レンズ。50万円もする代物を紛失したのだ。
     先輩の顔が青くなるのを眼前にして、ビニール傘と
    懐中電灯を手に土砂降りの中へ飛び出してきた。
     そんなこんなで、真夜中の公園に一人の不審者が
    誕生した。
    「はぁ、雨ガッパも着てくるんだった・・・。」
     草むらを照らしながらのひとりごとである。

    ―――と、ビニール傘をトントンとたたく音がする。
     
     感覚で分かる。あいつである。僕の悩みの種。
    幽霊である。
    「今、忙しいんだ・・・。」

    「レンズをお探しですね。全部見ていました。」

    「ん?・・・全部?」
     ふり返ると彼女が立っていた。傘もささず、土砂
    降りに濡れることも無く、懐中電灯に照らされる光
    を眺めている。
    「はい、あなたの仕事ぶりをずっと見ていました。」

    「どこで落としたか分かるの?」

    「それが、見ていないんです。」
     からかう様な彼女の言葉にムッとして、草むらに
    分け入りながら舌打ちをしてみせた。
    「ただ、一箇所だけ私が入れない場所があるんです。
    ・・・多分そこかと。」
     入れない?場所?結界的なものかな?
     彼女を見ると、うつむき顔が赤い。
     ピンときた。彼女は幽霊であるにもかかわらず、
    風呂上がりの僕を見て悲鳴を上げるのである。普通、
    悲鳴を上げるのは僕のほうだ。

    ――――トイレか・・・。

     それは、巾着袋に入って棚の上にあった。中のレ
    ンズも無事であった。
     心配していた先輩も安堵していた。

     これで二度目か・・・。
     二度も救われてしまっては、恩というものを返さ
    ねばならないか。

     パラパラとビニール傘に跳ねる水の音が、和らい
    でいくのを感じながら家路についた。

                つづく。

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published : 2016/08/06

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