ま ぜんた

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納涼探偵Pその13

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納涼探偵Pその13

by ま ぜんた

  • iコンセプト

    プチ小説

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      その13「飛んで火に入る」

     薄暗い天井をじっと見つめながら、微かに響く車の走行音を聞いている。
    ――――――――――眠れない。

     僕は探偵である。深夜に思考が冴えて眠れないという事がままある。
     探偵とは、危険を予見するプロである。しかし、言い代えればネガティブ思考のプロとも言える。
    「犬も歩けば、・・・車にひかれる。」
    「猫に小判を、・・・盗まれる。」
    「猿も木から、・・・落ちて死ぬ。」
     いらぬ想像をしてしまうのだ。

    「・・・あの、ちょっといいでしょうか?」ドア越しに話しかけるこの声は、あいつである。寝たフリをしよう。
    「火事です。起きてください。」
    「エエ?」飛び起きて窓を開ける。と、確かにけむい。サイレンもかすかに聞こえる。
    「火元は多少離れた場所なので、ここは大丈夫だと思います。しかし・・・。」
    「しかし?」ドア越しの声に問い返す。
    「・・・二階のベランダに子供がいるのに、気付かれていない様なんです。」
    「ん?二階って、君は空をとべるの?」
    「飛べないです。でも、火の中を歩けるんです。あの子を助けてあげて下さい。」言いながら水玉の少女が、ドアをすり抜けて部屋に入ってきた。
     不思議なのだが、この幽霊は全然怖くない。彼女は泣きそうな顔でうろたえているのだ。
     助けろと言われても、どうやって・・・?。二次災害のニオイがぷんぷんするのだが・・・。
    「プロの消防士さんにおまかせするしか、ないよね・・・。」言いながら彼女から目をそらした。
    「でも、・・・もし、自分の子供が同じ状態でも、そう言えますか?」
     う~ん・・・。言えない。が、消防士さんの邪魔はできない・・・。
     その時なぜか、枕元の携帯電話が自己主張をしている感覚があった。
     ピ・ポ・パ。「プツ、火事ですか?救急ですか?」早い。「あの、火事です。○○町の火事の向かいのビルの者です。二階のベランダに子供がうずくまっているのが見えるんですが、気付かれているのか心配で・・・。」
    「落ち着いて下さい。同様の情報は数件ありますが、まずはお名前からお願いします。」
    「あ、では、いいです。」ピ・・・。
     冷や汗が出た。
    「・・・気づかれていたんですね。」
     幽霊もため息をついてヘタりこんだ。

     そのあと、なかなか寝付けず、思考の海に深くダイブした。
    ――――人生が終わったあと、精神だけが生き残りこの世の事象を見続ける。それは拷問ではないだろうか。
     だとしたら、あの幽霊は何年その拷問の中にいるのだろう。
     
                つづく。

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      その13「飛んで火に入る」

     薄暗い天井をじっと見つめながら、微かに響く車の走行音を聞いている。
    ――――――――――眠れない。

     僕は探偵である。深夜に思考が冴えて眠れないという事がままある。
     探偵とは、危険を予見するプロである。しかし、言い代えればネガティブ思考のプロとも言える。
    「犬も歩けば、・・・車にひかれる。」
    「猫に小判を、・・・盗まれる。」
    「猿も木から、・・・落ちて死ぬ。」
     いらぬ想像をしてしまうのだ。

    「・・・あの、ちょっといいでしょうか?」ドア越しに話しかけるこの声は、あいつである。寝たフリをしよう。
    「火事です。起きてください。」
    「エエ?」飛び起きて窓を開ける。と、確かにけむい。サイレンもかすかに聞こえる。
    「火元は多少離れた場所なので、ここは大丈夫だと思います。しかし・・・。」
    「しかし?」ドア越しの声に問い返す。
    「・・・二階のベランダに子供がいるのに、気付かれていない様なんです。」
    「ん?二階って、君は空をとべるの?」
    「飛べないです。でも、火の中を歩けるんです。あの子を助けてあげて下さい。」言いながら水玉の少女が、ドアをすり抜けて部屋に入ってきた。
     不思議なのだが、この幽霊は全然怖くない。彼女は泣きそうな顔でうろたえているのだ。
     助けろと言われても、どうやって・・・?。二次災害のニオイがぷんぷんするのだが・・・。
    「プロの消防士さんにおまかせするしか、ないよね・・・。」言いながら彼女から目をそらした。
    「でも、・・・もし、自分の子供が同じ状態でも、そう言えますか?」
     う~ん・・・。言えない。が、消防士さんの邪魔はできない・・・。
     その時なぜか、枕元の携帯電話が自己主張をしている感覚があった。
     ピ・ポ・パ。「プツ、火事ですか?救急ですか?」早い。「あの、火事です。○○町の火事の向かいのビルの者です。二階のベランダに子供がうずくまっているのが見えるんですが、気付かれているのか心配で・・・。」
    「落ち着いて下さい。同様の情報は数件ありますが、まずはお名前からお願いします。」
    「あ、では、いいです。」ピ・・・。
     冷や汗が出た。
    「・・・気づかれていたんですね。」
     幽霊もため息をついてヘタりこんだ。

     そのあと、なかなか寝付けず、思考の海に深くダイブした。
    ――――人生が終わったあと、精神だけが生き残りこの世の事象を見続ける。それは拷問ではないだろうか。
     だとしたら、あの幽霊は何年その拷問の中にいるのだろう。
     
                つづく。

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published : 2017/08/19

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