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Commentプチ小説。
その14「夏の虫」
青い光がゆらゆら揺れる、深い海の底。ここは僕の精神世界である。
誰にも邪魔されず、考えにふけることのできる唯一の場所。
――――――――思考の海。
昨夜、近所で火事騒ぎがあった。その後なかなか寝付けず、思考の海を漂ううちに朝になってしまったのだ。
「仕方がない、起きるか・・・。」
テレビをつけ、朝のニュースを見ていると見覚えのある景色が映っていた。昨夜の火事の報道であった。
老夫婦の住むアパートの一室が全焼したらしい。しかし、住人は外出中だったため無傷ですんだ様だ。
「・・・ん?。」
僕の同居人。あの幽霊が騒いでいた子供の事が報道されていない。
あのムスメ、嘘をついたか?
いや、電話オペレーターの女性も知っている様な口調だった。無駄に考えるより本人に訊くのが早いな・・・。
「どうせその辺にいるんだろ?。」
――――――――返事はなかった。
何か恥をかかされた気分である。
「どこですか~?。」こわごわと別室のドアを開く。が、気配がない。
チャプン・・・。かすかに水の音が聞こえた。
「今はかくれんぼしてる暇はないのに・・・」音のする風呂場のガラス戸を開け、凍りついた。
彼女はなんと、全裸であった。
「キャー!」(←幽霊。)
「ゴ、ゴ、ごめん!」(←僕。)
パニックであった。瞬時にガラス戸を閉め、後ろを向いた。
「し、質問が、あった。あるので、り、リビングにいます。」
それだけ言ってリビングへ戻った。
ほどなくして、彼女はリビングに現れた。いつものワンピース姿である。
「驚かしてしまって、すみませんでした・・・。」
悲鳴を上げたのは僕ではないのだが、僕には非がない。――はずである。
「実体のない存在なのに、お風呂なんて意味あるの?」
「ありますよ!。髪だって時々編み直しているんです!。」
「ほう。」感心。確かに整った髪だ。
「そうじゃなかった。質問だった。昨日の火事の事で・・・。」
「あ・・・、その事ですね。」
もぞもぞと彼女のスカートが動き、後ろから三つ編みの少女が顔を出した。一瞬目が合い、ちょっと口をとがらせてまたひっこんだ。
「昨日言ってた子。この子です。数日前に近くの病院で亡くなった様です。」
「幽霊?。・・・連れてきちゃったの?」
「はい。お顔がススだらけだったので洗ってあげたくて・・・。」
キョトンとした瞳。透き通る三つ編み。どうやら半透明の同居人が、またひとり増えてしまった様である。
つづく。
納涼探偵Pその14
by ま ぜんた
プチ小説。
その14「夏の虫」
青い光がゆらゆら揺れる、深い海の底。ここは僕の精神世界である。
誰にも邪魔されず、考えにふけることのできる唯一の場所。
――――――――思考の海。
昨夜、近所で火事騒ぎがあった。その後なかなか寝付けず、思考の海を漂ううちに朝になってしまったのだ。
「仕方がない、起きるか・・・。」
テレビをつけ、朝のニュースを見ていると見覚えのある景色が映っていた。昨夜の火事の報道であった。
老夫婦の住むアパートの一室が全焼したらしい。しかし、住人は外出中だったため無傷ですんだ様だ。
「・・・ん?。」
僕の同居人。あの幽霊が騒いでいた子供の事が報道されていない。
あのムスメ、嘘をついたか?
いや、電話オペレーターの女性も知っている様な口調だった。無駄に考えるより本人に訊くのが早いな・・・。
「どうせその辺にいるんだろ?。」
――――――――返事はなかった。
何か恥をかかされた気分である。
「どこですか~?。」こわごわと別室のドアを開く。が、気配がない。
チャプン・・・。かすかに水の音が聞こえた。
「今はかくれんぼしてる暇はないのに・・・」音のする風呂場のガラス戸を開け、凍りついた。
彼女はなんと、全裸であった。
「キャー!」(←幽霊。)
「ゴ、ゴ、ごめん!」(←僕。)
パニックであった。瞬時にガラス戸を閉め、後ろを向いた。
「し、質問が、あった。あるので、り、リビングにいます。」
それだけ言ってリビングへ戻った。
ほどなくして、彼女はリビングに現れた。いつものワンピース姿である。
「驚かしてしまって、すみませんでした・・・。」
悲鳴を上げたのは僕ではないのだが、僕には非がない。――はずである。
「実体のない存在なのに、お風呂なんて意味あるの?」
「ありますよ!。髪だって時々編み直しているんです!。」
「ほう。」感心。確かに整った髪だ。
「そうじゃなかった。質問だった。昨日の火事の事で・・・。」
「あ・・・、その事ですね。」
もぞもぞと彼女のスカートが動き、後ろから三つ編みの少女が顔を出した。一瞬目が合い、ちょっと口をとがらせてまたひっこんだ。
「昨日言ってた子。この子です。数日前に近くの病院で亡くなった様です。」
「幽霊?。・・・連れてきちゃったの?」
「はい。お顔がススだらけだったので洗ってあげたくて・・・。」
キョトンとした瞳。透き通る三つ編み。どうやら半透明の同居人が、またひとり増えてしまった様である。
つづく。
published : 2017/08/24