ま ぜんた

m
r

ま ぜんた

作家

  • 3

    Fav 1
  • 9

    View 36,544
  • p

    Works 55

WORKS

文学・文芸 > 小説

納涼探偵Pその14

9

View
155

3

Fav
0

1

Comment
0
  • C
    作品を拡大
  • B
    作品一覧

Other Works

jシェア

納涼探偵Pその14

by ま ぜんた

  • iコンセプト

    プチ小説。

  • iコメント

         その14「夏の虫」

     青い光がゆらゆら揺れる、深い海の底。ここは僕の精神世界である。
     誰にも邪魔されず、考えにふけることのできる唯一の場所。
    ――――――――思考の海。

     昨夜、近所で火事騒ぎがあった。その後なかなか寝付けず、思考の海を漂ううちに朝になってしまったのだ。
    「仕方がない、起きるか・・・。」
     テレビをつけ、朝のニュースを見ていると見覚えのある景色が映っていた。昨夜の火事の報道であった。
     老夫婦の住むアパートの一室が全焼したらしい。しかし、住人は外出中だったため無傷ですんだ様だ。
    「・・・ん?。」
    僕の同居人。あの幽霊が騒いでいた子供の事が報道されていない。
     あのムスメ、嘘をついたか?
     いや、電話オペレーターの女性も知っている様な口調だった。無駄に考えるより本人に訊くのが早いな・・・。
    「どうせその辺にいるんだろ?。」
     ――――――――返事はなかった。
    何か恥をかかされた気分である。
    「どこですか~?。」こわごわと別室のドアを開く。が、気配がない。
     チャプン・・・。かすかに水の音が聞こえた。
    「今はかくれんぼしてる暇はないのに・・・」音のする風呂場のガラス戸を開け、凍りついた。
     彼女はなんと、全裸であった。
    「キャー!」(←幽霊。)
    「ゴ、ゴ、ごめん!」(←僕。)
     パニックであった。瞬時にガラス戸を閉め、後ろを向いた。
    「し、質問が、あった。あるので、り、リビングにいます。」
     それだけ言ってリビングへ戻った。

     ほどなくして、彼女はリビングに現れた。いつものワンピース姿である。
    「驚かしてしまって、すみませんでした・・・。」
     悲鳴を上げたのは僕ではないのだが、僕には非がない。――はずである。
    「実体のない存在なのに、お風呂なんて意味あるの?」
    「ありますよ!。髪だって時々編み直しているんです!。」
    「ほう。」感心。確かに整った髪だ。
    「そうじゃなかった。質問だった。昨日の火事の事で・・・。」
    「あ・・・、その事ですね。」
     もぞもぞと彼女のスカートが動き、後ろから三つ編みの少女が顔を出した。一瞬目が合い、ちょっと口をとがらせてまたひっこんだ。
    「昨日言ってた子。この子です。数日前に近くの病院で亡くなった様です。」
    「幽霊?。・・・連れてきちゃったの?」
    「はい。お顔がススだらけだったので洗ってあげたくて・・・。」

     キョトンとした瞳。透き通る三つ編み。どうやら半透明の同居人が、またひとり増えてしまった様である。
                 つづく。

  • iライセンス

    設定しない

1

Comment

  • FAVをして作品の感想・コメントを残しましょう

    3
    FAV

jこのページをシェア

納涼探偵Pその14

by ま ぜんた

  • iコンセプト

    プチ小説。

  • iコメント

         その14「夏の虫」

     青い光がゆらゆら揺れる、深い海の底。ここは僕の精神世界である。
     誰にも邪魔されず、考えにふけることのできる唯一の場所。
    ――――――――思考の海。

     昨夜、近所で火事騒ぎがあった。その後なかなか寝付けず、思考の海を漂ううちに朝になってしまったのだ。
    「仕方がない、起きるか・・・。」
     テレビをつけ、朝のニュースを見ていると見覚えのある景色が映っていた。昨夜の火事の報道であった。
     老夫婦の住むアパートの一室が全焼したらしい。しかし、住人は外出中だったため無傷ですんだ様だ。
    「・・・ん?。」
    僕の同居人。あの幽霊が騒いでいた子供の事が報道されていない。
     あのムスメ、嘘をついたか?
     いや、電話オペレーターの女性も知っている様な口調だった。無駄に考えるより本人に訊くのが早いな・・・。
    「どうせその辺にいるんだろ?。」
     ――――――――返事はなかった。
    何か恥をかかされた気分である。
    「どこですか~?。」こわごわと別室のドアを開く。が、気配がない。
     チャプン・・・。かすかに水の音が聞こえた。
    「今はかくれんぼしてる暇はないのに・・・」音のする風呂場のガラス戸を開け、凍りついた。
     彼女はなんと、全裸であった。
    「キャー!」(←幽霊。)
    「ゴ、ゴ、ごめん!」(←僕。)
     パニックであった。瞬時にガラス戸を閉め、後ろを向いた。
    「し、質問が、あった。あるので、り、リビングにいます。」
     それだけ言ってリビングへ戻った。

     ほどなくして、彼女はリビングに現れた。いつものワンピース姿である。
    「驚かしてしまって、すみませんでした・・・。」
     悲鳴を上げたのは僕ではないのだが、僕には非がない。――はずである。
    「実体のない存在なのに、お風呂なんて意味あるの?」
    「ありますよ!。髪だって時々編み直しているんです!。」
    「ほう。」感心。確かに整った髪だ。
    「そうじゃなかった。質問だった。昨日の火事の事で・・・。」
    「あ・・・、その事ですね。」
     もぞもぞと彼女のスカートが動き、後ろから三つ編みの少女が顔を出した。一瞬目が合い、ちょっと口をとがらせてまたひっこんだ。
    「昨日言ってた子。この子です。数日前に近くの病院で亡くなった様です。」
    「幽霊?。・・・連れてきちゃったの?」
    「はい。お顔がススだらけだったので洗ってあげたくて・・・。」

     キョトンとした瞳。透き通る三つ編み。どうやら半透明の同居人が、またひとり増えてしまった様である。
                 つづく。

  • iライセンス

    設定しない

published : 2017/08/24

閉じる
k
k