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文学・文芸 > 小説

プチ小説 納涼探偵 P その10

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プチ小説 納涼探偵 P その10

by ま ぜんた

  • iコンセプト

    プチ小説

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       その10「思考の構造」

     朝の斜光がカーテンの隙間をすりぬけて、
    僕のまぶたの向こう側を照らし始めた。
     夏の早朝である。もちろん僕は、掛け布
    団でガードを固め二度寝にふける。この瞬
    間は天国である。
    「あの・・・、まだ、起きませんか?」
     この声はあってはならない声である。気
    付かぬふりをしよう・・・。
     突然、全身が見えない何かで締め付けら
    れる様な感覚に襲われた。
     これは・・・、金縛りという奴か・・・。
    「わ・・・わかった。起きる、から・・・。」

     最悪の朝である。僕にとりついた幽霊が、
    昨日から突然話し始めた。
    「私は、いつ、どのように亡くなったので
    しょうか?気付いた時には霊になって、あの
    廃屋に立っていました。」
     お気の毒とは思うが、僕には無関係である。
    「それは、成仏というものをしてみれば全て
    が鮮明に出てくるのではないかなー。」
    「あの・・・、パソコンなどで調べられない
    でしょうか?」
     ん・・・。この幽霊なかなか鋭いことを言う。
    ネットであの廃屋の事を検索すれば、何らか
    の情報は得られるはずだ。・・・しかし。
    「僕は今日、休日なんだ・・・。」
     そう言ってカーテンの隙間から入る朝日に
    目をむけた。
     そうして、毅然と断ってみせた僕の手は、
    震えていた。
    「怖がらなくても大丈夫ですよ・・・。あな
    たに危害を加える気は無いですから・・・。」
     彼女は、斜光を避ける様にして僕の正面に
    座った。

     先ほど受けた金縛りは、僕にとっては充分
    な危害である。ほんの少しの苛立ちとともに、
    カーテンをザっと全開にして、朝日をいれて
    みた。
     それでも彼女は消えなかった。うっすらと
    したフォログラムの様に、ソファーに座って
    いるのだった。
    「明るくなると見えなくなると思ったんです
    ね・・・。今の私とあなたは、電話での通話
    中の様な状態にあります。だからあなたには
    見えるんです。」と、ちょっと意地悪に微笑
    んだ。
     その時、初めて彼女をまじまじと見た。夏
    の装いである。紺の水玉のワンピース、黒髪
    を編み後頭部でまとめ、前髪を綺麗な七三で
    整えている。

     しかし、物理的にありえない・・・。実体
    を持たぬ者が、ものを考えたり出来るのか・
    ・・。記憶や会話には、どれだけの脳細胞が
    必要か・・・。活力源は何なのか・・・。また
    は、そんな物理法則を無視した存在なのであろ
    うか・・・。

     僕は、この究極のエコロジーの存在に、徐々
    に興味を持ち始めていた。

                 つづく。 

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       その10「思考の構造」

     朝の斜光がカーテンの隙間をすりぬけて、
    僕のまぶたの向こう側を照らし始めた。
     夏の早朝である。もちろん僕は、掛け布
    団でガードを固め二度寝にふける。この瞬
    間は天国である。
    「あの・・・、まだ、起きませんか?」
     この声はあってはならない声である。気
    付かぬふりをしよう・・・。
     突然、全身が見えない何かで締め付けら
    れる様な感覚に襲われた。
     これは・・・、金縛りという奴か・・・。
    「わ・・・わかった。起きる、から・・・。」

     最悪の朝である。僕にとりついた幽霊が、
    昨日から突然話し始めた。
    「私は、いつ、どのように亡くなったので
    しょうか?気付いた時には霊になって、あの
    廃屋に立っていました。」
     お気の毒とは思うが、僕には無関係である。
    「それは、成仏というものをしてみれば全て
    が鮮明に出てくるのではないかなー。」
    「あの・・・、パソコンなどで調べられない
    でしょうか?」
     ん・・・。この幽霊なかなか鋭いことを言う。
    ネットであの廃屋の事を検索すれば、何らか
    の情報は得られるはずだ。・・・しかし。
    「僕は今日、休日なんだ・・・。」
     そう言ってカーテンの隙間から入る朝日に
    目をむけた。
     そうして、毅然と断ってみせた僕の手は、
    震えていた。
    「怖がらなくても大丈夫ですよ・・・。あな
    たに危害を加える気は無いですから・・・。」
     彼女は、斜光を避ける様にして僕の正面に
    座った。

     先ほど受けた金縛りは、僕にとっては充分
    な危害である。ほんの少しの苛立ちとともに、
    カーテンをザっと全開にして、朝日をいれて
    みた。
     それでも彼女は消えなかった。うっすらと
    したフォログラムの様に、ソファーに座って
    いるのだった。
    「明るくなると見えなくなると思ったんです
    ね・・・。今の私とあなたは、電話での通話
    中の様な状態にあります。だからあなたには
    見えるんです。」と、ちょっと意地悪に微笑
    んだ。
     その時、初めて彼女をまじまじと見た。夏
    の装いである。紺の水玉のワンピース、黒髪
    を編み後頭部でまとめ、前髪を綺麗な七三で
    整えている。

     しかし、物理的にありえない・・・。実体
    を持たぬ者が、ものを考えたり出来るのか・
    ・・。記憶や会話には、どれだけの脳細胞が
    必要か・・・。活力源は何なのか・・・。また
    は、そんな物理法則を無視した存在なのであろ
    うか・・・。

     僕は、この究極のエコロジーの存在に、徐々
    に興味を持ち始めていた。

                 つづく。 

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published : 2016/08/06

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