ま ぜんた

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文学・文芸 > 小説

プチ小説 納涼探偵 P その9

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プチ小説 納涼探偵 P その9

by ま ぜんた

  • iコンセプト

    プチ小説

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         その9「迷宮の街」

    ――――今、とある男の張り込み中である。

     張り込みとは言っても探偵の張り込みは、
    刑事ドラマのそれとは違う。
     ビルの屋上や見晴らしのいい場所に潜み、
    超望遠レンズを使い撮影をするのである。
     僕の仕事は、先輩探偵の欲する物を瞬時
    に買い付ける。俗に言うパシリである。

     そうして今、明滅する街灯の下でコンビニ
    袋を手に持ち、立ち尽くしていた。
    「・・・道に迷った。」

    「えーと、小さな階段、街路樹、壁のポス
    ター、バス停、・・・で、行き止まり。」
     今日の昼間、後輩の女の子に言われた事が
    頭をよぎった。
    「先輩、何か憑いてますよ。心霊スポット
    とか行ったでしょう?」
     ギョッとした。つい最近、廃屋で怖い目に
    あったばかりである。
    「Qちゃんて、そういうの見えるの?」
    「はい、・・・でも、悪い霊ではなさそうで
    すし、美人さんですよ。」
    「御祓いとかはできないの?」
    「無理です。」
     その時は平気なふりをしていたが、内心、
    穏やかではなかった。
     悪い霊ではない?作業員にケガをさせた
    霊じゃないのか?
     明滅する街灯の下。僕は、背後に何かを
    感じ、硬直した。
    「いない、いない、なんにもいない。」
     だが、それは、小さな声で話しかけてき
    た。
    「あの・・・。」
    「いない、いない。」
    「あの、聞いてください・・・。」
    「なんみょうほうれんげーきょう・・・。」
     僕は必至で声をセーブした。何と言って
    も張り込み中である。
    「きこえない、聞けば僕も大けがをする。」
    「誤解です。彼は自分で落ちたんです。私
    に良からぬ事をしようとして、地下に引っ
    張り、すり抜けて落ちました。」
    「そういう人には見えなかったけど・・・。」
    「そういう人でした。お願いです。私の依頼
    受けて下さい。その代わり何でもお手伝いし
    ます。」
    「依頼・・・?幽霊に手伝える事なんて・・
    ・ない。」
    「今、道に迷ってますよね。ご案内します。」

     先輩の吸う煙草の煙が見えて、ホっと胸
    をなでおろした。
    「すみません。遅くなりました。」
    「おお、お疲れ、こっちも今終わったとこ
    だよ。」

     幽霊の道案内は的確だった。そして、い
    つの間にか恐怖も消えていたのだ。

                  つづく。

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         その9「迷宮の街」

    ――――今、とある男の張り込み中である。

     張り込みとは言っても探偵の張り込みは、
    刑事ドラマのそれとは違う。
     ビルの屋上や見晴らしのいい場所に潜み、
    超望遠レンズを使い撮影をするのである。
     僕の仕事は、先輩探偵の欲する物を瞬時
    に買い付ける。俗に言うパシリである。

     そうして今、明滅する街灯の下でコンビニ
    袋を手に持ち、立ち尽くしていた。
    「・・・道に迷った。」

    「えーと、小さな階段、街路樹、壁のポス
    ター、バス停、・・・で、行き止まり。」
     今日の昼間、後輩の女の子に言われた事が
    頭をよぎった。
    「先輩、何か憑いてますよ。心霊スポット
    とか行ったでしょう?」
     ギョッとした。つい最近、廃屋で怖い目に
    あったばかりである。
    「Qちゃんて、そういうの見えるの?」
    「はい、・・・でも、悪い霊ではなさそうで
    すし、美人さんですよ。」
    「御祓いとかはできないの?」
    「無理です。」
     その時は平気なふりをしていたが、内心、
    穏やかではなかった。
     悪い霊ではない?作業員にケガをさせた
    霊じゃないのか?
     明滅する街灯の下。僕は、背後に何かを
    感じ、硬直した。
    「いない、いない、なんにもいない。」
     だが、それは、小さな声で話しかけてき
    た。
    「あの・・・。」
    「いない、いない。」
    「あの、聞いてください・・・。」
    「なんみょうほうれんげーきょう・・・。」
     僕は必至で声をセーブした。何と言って
    も張り込み中である。
    「きこえない、聞けば僕も大けがをする。」
    「誤解です。彼は自分で落ちたんです。私
    に良からぬ事をしようとして、地下に引っ
    張り、すり抜けて落ちました。」
    「そういう人には見えなかったけど・・・。」
    「そういう人でした。お願いです。私の依頼
    受けて下さい。その代わり何でもお手伝いし
    ます。」
    「依頼・・・?幽霊に手伝える事なんて・・
    ・ない。」
    「今、道に迷ってますよね。ご案内します。」

     先輩の吸う煙草の煙が見えて、ホっと胸
    をなでおろした。
    「すみません。遅くなりました。」
    「おお、お疲れ、こっちも今終わったとこ
    だよ。」

     幽霊の道案内は的確だった。そして、い
    つの間にか恐怖も消えていたのだ。

                  つづく。

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published : 2016/07/19

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