ま ぜんた

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文学・文芸 > 小説

プチ小説 納涼探偵 P その8

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プチ小説 納涼探偵 P その8

by ま ぜんた

  • iコンセプト

    プチ小説

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      その8 ガラスのざわめき(後)

     彼女は、不安そうに僕をみている。

     僕は、逃げ出したい気持ちをおし殺して
    決断を下した。
    「ちょっと、見てきます。ここに居てくだ
    さい。」
     そう言い残し、不気味な音のする地下へ
    と向かった。
     ゴロローン・・・。落雷が近づく中、暗
    い地下へと降りるのは恐怖以外の何者でも
    なかった。が、若い女性の前で虚勢を張る
    のは男のサガである。
     階段を一段一段降りて行く。パリッ・・・、
    こんな所までガラスの破片がある。

     真っ直ぐに地下へと降りる階段の一番下
    に人影が見える。ヘルメットをかぶり青い
    作業服を着ている。
    「・・・大丈夫ですか?」

    ――――まだ、僕は恐怖の中にいた。
     いや、今が頂点と言っても過言ではない
    のだ。薄暗い地下である。彼が生身の人間
    とは限らない、あのヘルメットの中から頭
    蓋骨がゴロン、なんて事もあるかも知れな
    い。
     
    「き・・・救急隊の方ですか?・・・右足
    が、折れている様なんです、助けて下さい
    ・・・。」
     右手に携帯電話が光るのが見える。どう
    やら人間の様である。
    「僕は違います。探偵社の者です。」
     徐々に救急車のサイレンの音が近づいて
    くる。

    「・・・どうしたんですか?」
    「どうしたもこうしたもないです。あなた
    の同業者に突き落とされたんですよ。若い
    女性と思って気を許したのが間違いでした。」
     同業者?・・・若い女性。
     ずっと引っ掛かっていた。さっきの依頼
    人、一度もガラスを踏む音がしなかった。
    ざわざわとしたイヤな感覚が全身に走った。

    ――――その後、彼女は一度も姿を見せる事
    なく、廃屋は爆破解体された。
     後に仕事の依頼内容がわかった。
     この廃屋は、爆破目前になると屋内に人影
    が見え、実際探しても見つからなかった。ど
    うにか探し出し、連れ出して欲しい。という
    内容だった。
     解体前に、成仏を願う祈祷をしてもらった
    所、もう人影は現れなくなったそうである。
     今、様々な重機が瓦礫を粉砕し、その砂煙
    に向けて放水をするのをぼんやりと眺めている。 
     あの雨の日、あのまま彼女についていって
    いたら、僕はどうなっていたのだろう・・・。

     快晴の空に、ピチャピチャという水の音が
    何とも涼しげに響いていた。

                 つづく。

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      その8 ガラスのざわめき(後)

     彼女は、不安そうに僕をみている。

     僕は、逃げ出したい気持ちをおし殺して
    決断を下した。
    「ちょっと、見てきます。ここに居てくだ
    さい。」
     そう言い残し、不気味な音のする地下へ
    と向かった。
     ゴロローン・・・。落雷が近づく中、暗
    い地下へと降りるのは恐怖以外の何者でも
    なかった。が、若い女性の前で虚勢を張る
    のは男のサガである。
     階段を一段一段降りて行く。パリッ・・・、
    こんな所までガラスの破片がある。

     真っ直ぐに地下へと降りる階段の一番下
    に人影が見える。ヘルメットをかぶり青い
    作業服を着ている。
    「・・・大丈夫ですか?」

    ――――まだ、僕は恐怖の中にいた。
     いや、今が頂点と言っても過言ではない
    のだ。薄暗い地下である。彼が生身の人間
    とは限らない、あのヘルメットの中から頭
    蓋骨がゴロン、なんて事もあるかも知れな
    い。
     
    「き・・・救急隊の方ですか?・・・右足
    が、折れている様なんです、助けて下さい
    ・・・。」
     右手に携帯電話が光るのが見える。どう
    やら人間の様である。
    「僕は違います。探偵社の者です。」
     徐々に救急車のサイレンの音が近づいて
    くる。

    「・・・どうしたんですか?」
    「どうしたもこうしたもないです。あなた
    の同業者に突き落とされたんですよ。若い
    女性と思って気を許したのが間違いでした。」
     同業者?・・・若い女性。
     ずっと引っ掛かっていた。さっきの依頼
    人、一度もガラスを踏む音がしなかった。
    ざわざわとしたイヤな感覚が全身に走った。

    ――――その後、彼女は一度も姿を見せる事
    なく、廃屋は爆破解体された。
     後に仕事の依頼内容がわかった。
     この廃屋は、爆破目前になると屋内に人影
    が見え、実際探しても見つからなかった。ど
    うにか探し出し、連れ出して欲しい。という
    内容だった。
     解体前に、成仏を願う祈祷をしてもらった
    所、もう人影は現れなくなったそうである。
     今、様々な重機が瓦礫を粉砕し、その砂煙
    に向けて放水をするのをぼんやりと眺めている。 
     あの雨の日、あのまま彼女についていって
    いたら、僕はどうなっていたのだろう・・・。

     快晴の空に、ピチャピチャという水の音が
    何とも涼しげに響いていた。

                 つづく。

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published : 2016/07/19

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