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文学・文芸 > 小説

プチ小説 納涼探偵 P その7

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プチ小説 納涼探偵 P その7

by ま ぜんた

  • iコンセプト

    プチ小説

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      その7 ガラスのざわめき(前)

     直立するビル群、その向こう側に入道雲
    が見える。
     とりわけ大都会とも言えない地方都市。
    僕は、とある廃屋の前にいた。

    ――――― 待ち合わせである。

     僕は、探偵社の社員である。その関係で
    見知らぬ誰かと待ち合わせ、という事がよ
    くある。

     しかし、依頼主がなかなか来ない。
     ゴロロ―ン・・・。かみなりが鳴り響き、
    雨まで降って来た。
    「傘、持ってないよ・・・。」と、ため息を
    つき、廃屋を見上げた。

     不気味な建物である。立派な三階建ての
    ビルではあるが、ガラスが一枚も入ってい
    ない。ボロボロのカーテンがビルを吹き抜
    ける風で外側にはみ出し、風鳴りと共に不
    気味に揺れる。    
     何より、屋内は真っ暗である。

     雨は徐々に強さを増して来た。
    「仕方がない・・・。」と、おそるおそる廃屋
    の中へと入ってみた。
     パリッ・・・。ガラスの破片がそこらへん中
    に散らばっていて、足を踏み出すごとにこの音
    が響くのである。

    ――――と、遠くで声がする。「スミマセ―ン、
    探偵社の方いませんか―?」
     若い女性の声だ。依頼人がやっと来たのだ。
    「ここで―す。探偵社の者です―。」
     僕の返答に気付き、彼女は小走りで近づいて
    来た。二十代後半といったところか、すらりと
    した美人である。

    「スミマセン、遅くなりました。途中で傘を取り
    に戻って、それで・・・、スミマセン!」
     そう言って深々と頭を下げた。
    「あ、お気になさらずに・・・。」

     不意に風が吹き込み、サラサラとガラスが鳴り
    響いた。さらに、ガラスの音の向こう側で、低い
    男のうめき声が壁づたいに反響していた。

    「今の・・・、聞こえました?」

    「え?何ですか?」

     彼女には聞こえていない様だ。が、うめき声は
    地下へと続く階段の方からしている。

    ――――僕は、臆病者である。

     先々を悪い方悪い方へばかりへと考えてしまい、
    それがまたよく当たるので、マイナス思考が加速
    した。
     結果、臆病者になってしまった。

     そんな僕を、今、彼女は不安そうに見ている。

                  つづく。

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      その7 ガラスのざわめき(前)

     直立するビル群、その向こう側に入道雲
    が見える。
     とりわけ大都会とも言えない地方都市。
    僕は、とある廃屋の前にいた。

    ――――― 待ち合わせである。

     僕は、探偵社の社員である。その関係で
    見知らぬ誰かと待ち合わせ、という事がよ
    くある。

     しかし、依頼主がなかなか来ない。
     ゴロロ―ン・・・。かみなりが鳴り響き、
    雨まで降って来た。
    「傘、持ってないよ・・・。」と、ため息を
    つき、廃屋を見上げた。

     不気味な建物である。立派な三階建ての
    ビルではあるが、ガラスが一枚も入ってい
    ない。ボロボロのカーテンがビルを吹き抜
    ける風で外側にはみ出し、風鳴りと共に不
    気味に揺れる。    
     何より、屋内は真っ暗である。

     雨は徐々に強さを増して来た。
    「仕方がない・・・。」と、おそるおそる廃屋
    の中へと入ってみた。
     パリッ・・・。ガラスの破片がそこらへん中
    に散らばっていて、足を踏み出すごとにこの音
    が響くのである。

    ――――と、遠くで声がする。「スミマセ―ン、
    探偵社の方いませんか―?」
     若い女性の声だ。依頼人がやっと来たのだ。
    「ここで―す。探偵社の者です―。」
     僕の返答に気付き、彼女は小走りで近づいて
    来た。二十代後半といったところか、すらりと
    した美人である。

    「スミマセン、遅くなりました。途中で傘を取り
    に戻って、それで・・・、スミマセン!」
     そう言って深々と頭を下げた。
    「あ、お気になさらずに・・・。」

     不意に風が吹き込み、サラサラとガラスが鳴り
    響いた。さらに、ガラスの音の向こう側で、低い
    男のうめき声が壁づたいに反響していた。

    「今の・・・、聞こえました?」

    「え?何ですか?」

     彼女には聞こえていない様だ。が、うめき声は
    地下へと続く階段の方からしている。

    ――――僕は、臆病者である。

     先々を悪い方悪い方へばかりへと考えてしまい、
    それがまたよく当たるので、マイナス思考が加速
    した。
     結果、臆病者になってしまった。

     そんな僕を、今、彼女は不安そうに見ている。

                  つづく。

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published : 2016/07/19

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