ま ぜんた

m
r

ま ぜんた

作家

  • 3

    Fav 1
  • 9

    View 36,542
  • p

    Works 55

WORKS

文学・文芸 > 小説

プチ小説 納涼探偵 P その6

9

View
168

3

Fav
0

1

Comment
0
  • C
    作品を拡大
  • B
    作品一覧

Other Works

jシェア

プチ小説 納涼探偵 P その6

by ま ぜんた

  • iコメント

         その6 夜の信仰

     満天の星空、そこに、ピンクのちょうちんが
    ゆれている。

     僕は、探偵社の仲間のO太先輩、新人Qちゃん
    との三人で、ビアガーデンにいた。
     夏の暑い夜、それなりの賑わいだ。
     すでに僕の前には、空になった中ジョッキ五本
    と、焼き鳥のたれのついたお皿が数枚並んでいた。
     ほろ酔いのO太先輩が、「今日はめでたいよ、晴
    れて君も探偵仲間だ!」と、僕の肩をポンとたた
    いた。
    「いや、僕じゃなく、Qちゃんでしょ?新人さん
    は・・・。」
     僕は軽く反論した。
    「いや、君でいいんだ。僕らは新人に出し抜かれて
     初めて、仲間入りなんだからね。」O太先輩は続けた。
    「彼はね、優秀なもんだから、今まで一度も新人入
    社を許さなかった。だから君は久々の新人なんだよ。」
     僕とQちゃんはキョトンとした。

     知らなかった・・・。
     さらにO太先輩は話を続け、「彼の試験は、僕が
    担当したんだ。彼はものの五分で姿を消したんだ。
    あんときゃ悔しかったなー。」と、顔をしぼめ、ビ
    ールをグイとあおった。
    「エッ、どうやって消えたんですか?」
     Qちゃんの目が僕に向き、目をかがやかせた。
     僕は思い出しながら話した。
    「あん時は確か、トイレで変装したんだ。サラリーマ
    ンからヤンキーに、十五秒で着替える練習をして、が
    に股に歩いて・・・。」
    「なるほど、そんなトリックがあったんですか。」
     Qちゃんは屈託のない笑みで言い、「Pさんは、
    探偵になったきっかけってありますか?」と、何気
    ない質問をぶつけてきた。
     僕が返答に困っていると、O太先輩が助け舟を出した。
    「うちの社には、自らを語るは無用、聞くは無
    作法、という社則がある。」
     不思議そうな顔のQちゃんに、僕は補足をした。
    「僕らは、個々の案件に対して守秘義務があるか
    ら、会話は最小限。互いの生活への干渉も禁止な
    んだ。」
    「そうなんですか・・・。」Qちゃんは悲しそう
    にうつむいた。
    「早いけど、そろそろお開きにしますか・・・。」
    O太先輩はさっと伝票を持ち去り会計を済ませ、
    「では、お先。」と、足早に帰っていった。

     先輩は多分、今日の僕を励まそうとしてくれた
    んだ。実際、さっきまでの落ち込みは何処かへ消
    えていた。

     いつもなら、うるさいだけの虫の声も、今日は
    何だか心地よく鳴り響いていた。
          
               つづく。

  • iライセンス

    設定しない

1

Comment

  • FAVをして作品の感想・コメントを残しましょう

    3
    FAV

jこのページをシェア

プチ小説 納涼探偵 P その6

by ま ぜんた

  • iコメント

         その6 夜の信仰

     満天の星空、そこに、ピンクのちょうちんが
    ゆれている。

     僕は、探偵社の仲間のO太先輩、新人Qちゃん
    との三人で、ビアガーデンにいた。
     夏の暑い夜、それなりの賑わいだ。
     すでに僕の前には、空になった中ジョッキ五本
    と、焼き鳥のたれのついたお皿が数枚並んでいた。
     ほろ酔いのO太先輩が、「今日はめでたいよ、晴
    れて君も探偵仲間だ!」と、僕の肩をポンとたた
    いた。
    「いや、僕じゃなく、Qちゃんでしょ?新人さん
    は・・・。」
     僕は軽く反論した。
    「いや、君でいいんだ。僕らは新人に出し抜かれて
     初めて、仲間入りなんだからね。」O太先輩は続けた。
    「彼はね、優秀なもんだから、今まで一度も新人入
    社を許さなかった。だから君は久々の新人なんだよ。」
     僕とQちゃんはキョトンとした。

     知らなかった・・・。
     さらにO太先輩は話を続け、「彼の試験は、僕が
    担当したんだ。彼はものの五分で姿を消したんだ。
    あんときゃ悔しかったなー。」と、顔をしぼめ、ビ
    ールをグイとあおった。
    「エッ、どうやって消えたんですか?」
     Qちゃんの目が僕に向き、目をかがやかせた。
     僕は思い出しながら話した。
    「あん時は確か、トイレで変装したんだ。サラリーマ
    ンからヤンキーに、十五秒で着替える練習をして、が
    に股に歩いて・・・。」
    「なるほど、そんなトリックがあったんですか。」
     Qちゃんは屈託のない笑みで言い、「Pさんは、
    探偵になったきっかけってありますか?」と、何気
    ない質問をぶつけてきた。
     僕が返答に困っていると、O太先輩が助け舟を出した。
    「うちの社には、自らを語るは無用、聞くは無
    作法、という社則がある。」
     不思議そうな顔のQちゃんに、僕は補足をした。
    「僕らは、個々の案件に対して守秘義務があるか
    ら、会話は最小限。互いの生活への干渉も禁止な
    んだ。」
    「そうなんですか・・・。」Qちゃんは悲しそう
    にうつむいた。
    「早いけど、そろそろお開きにしますか・・・。」
    O太先輩はさっと伝票を持ち去り会計を済ませ、
    「では、お先。」と、足早に帰っていった。

     先輩は多分、今日の僕を励まそうとしてくれた
    んだ。実際、さっきまでの落ち込みは何処かへ消
    えていた。

     いつもなら、うるさいだけの虫の声も、今日は
    何だか心地よく鳴り響いていた。
          
               つづく。

  • iライセンス

    設定しない

published : 2016/07/06

閉じる
k
k