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プチ小説 納涼探偵 P その5

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プチ小説 納涼探偵 P その5

by ま ぜんた

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       その5 氷の彫像

    ――――僕はクタクタに疲れていた。

     尾行の失敗で危うく遭難しかけ、日も沈み
    かけた今頃、街にたどり着いた。
     腹の立つことに、先ほどからチラチラと宙
    に浮かんでは消える女性の姿があった。

     白いワンピース、ベージュのつば広帽、黒
    い巻き髪の後ろ姿だ。
     想像の中で彼女は、何度かこちらを振り返り、
    美しく微笑んだ。しかし、振り返るたびに顔が
    違うのだった。
     涼しい夜の風が優しくほおを冷やした。

    「やあ、お疲れさん!」
     不意に声をかけられ、僕はキョトンとした。
     探偵社の先輩だった。僕より十歳ほど年上の
    ガッチリタイプの男だ。
    「あ、お疲れ様です。」
     ドギマギしながら何とか返答した。何故なら
    我が社では、社員同士の交友を禁止されている。
     探偵同士はアルファベット順にAからPまで、
    記号で呼び合う。AならA次さん、BはB藤さん、
    CはCちゃん、などである。彼はOなのでO太
    さんである。ちなみに僕はPなのでヨッPなど
    と呼ばれている。
     先輩は、ちょっと嬉しそうに「今日はもう帰っ
    ていいそうですよ。」と微笑して「これから飯で
    もどうです?」と付け加えた。
    「え・・・でも、禁止事項ですよ?」
     内心嬉しかったが、あえてためらって見せた。
    「ま、たまにはいいでしょう。」
    「そうですね。」
     耐えかねて笑いながら答えた。すると、先輩の
     陰から女の子がひょっこり顔を出した。
    「こんばんは。」
     知らない顔だ、リクルート服に身を包んだショー
    トカットの女の子だ。
     先輩に疑問の顔をなげかけると。
    「新人のQさんです。君の初の後輩だね。」先輩は、
    嬉しそうに答えた。
    「Qちゃん。て、呼んで下さい。」
     彼女の元気のいい声に僕も嬉しくなった。
    「Qちゃんか、よろしく。僕はPです。」
    「Pさんは優秀だと聞いていますよ。」と、少し置
    いて。
    「・・・先ほどは、失礼いたしました。」と、深々
    と頭をさげた。
     ん?何の事だ?・・・思い当った。
    「・・・入社試験?」
     僕も受けた。先輩探偵の尾行を、上手にまくこと
    が出来れば合格というやつだ。
    「じゃあ、さっき尾行した女性は、君?」
    「はい!」元気のいい答えだ。

     夏の暑さに耐えかねて、宙を舞う天使は儚くとけ
    ていった。

                 つづく。 

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プチ小説 納涼探偵 P その5

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       その5 氷の彫像

    ――――僕はクタクタに疲れていた。

     尾行の失敗で危うく遭難しかけ、日も沈み
    かけた今頃、街にたどり着いた。
     腹の立つことに、先ほどからチラチラと宙
    に浮かんでは消える女性の姿があった。

     白いワンピース、ベージュのつば広帽、黒
    い巻き髪の後ろ姿だ。
     想像の中で彼女は、何度かこちらを振り返り、
    美しく微笑んだ。しかし、振り返るたびに顔が
    違うのだった。
     涼しい夜の風が優しくほおを冷やした。

    「やあ、お疲れさん!」
     不意に声をかけられ、僕はキョトンとした。
     探偵社の先輩だった。僕より十歳ほど年上の
    ガッチリタイプの男だ。
    「あ、お疲れ様です。」
     ドギマギしながら何とか返答した。何故なら
    我が社では、社員同士の交友を禁止されている。
     探偵同士はアルファベット順にAからPまで、
    記号で呼び合う。AならA次さん、BはB藤さん、
    CはCちゃん、などである。彼はOなのでO太
    さんである。ちなみに僕はPなのでヨッPなど
    と呼ばれている。
     先輩は、ちょっと嬉しそうに「今日はもう帰っ
    ていいそうですよ。」と微笑して「これから飯で
    もどうです?」と付け加えた。
    「え・・・でも、禁止事項ですよ?」
     内心嬉しかったが、あえてためらって見せた。
    「ま、たまにはいいでしょう。」
    「そうですね。」
     耐えかねて笑いながら答えた。すると、先輩の
     陰から女の子がひょっこり顔を出した。
    「こんばんは。」
     知らない顔だ、リクルート服に身を包んだショー
    トカットの女の子だ。
     先輩に疑問の顔をなげかけると。
    「新人のQさんです。君の初の後輩だね。」先輩は、
    嬉しそうに答えた。
    「Qちゃん。て、呼んで下さい。」
     彼女の元気のいい声に僕も嬉しくなった。
    「Qちゃんか、よろしく。僕はPです。」
    「Pさんは優秀だと聞いていますよ。」と、少し置
    いて。
    「・・・先ほどは、失礼いたしました。」と、深々
    と頭をさげた。
     ん?何の事だ?・・・思い当った。
    「・・・入社試験?」
     僕も受けた。先輩探偵の尾行を、上手にまくこと
    が出来れば合格というやつだ。
    「じゃあ、さっき尾行した女性は、君?」
    「はい!」元気のいい答えだ。

     夏の暑さに耐えかねて、宙を舞う天使は儚くとけ
    ていった。

                 つづく。 

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published : 2016/07/06

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