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プチ小説 納涼探偵Pその4

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プチ小説 納涼探偵Pその4

by ま ぜんた

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        その4 聴衆の叫び

    ―――人間、あせれば焦るほど泥沼にはまる。

     僕は今、道に迷っていた。
     とある山中、樹海と言ってもいい。昼間な
    のに暗く、真夏なのに寒い。セミの声がサラ
    ウンドに鳴り響き、反射を繰り返しエコーする。

     僕は探偵社の仕事で、とある人を追ってここ
    に来た。
     今回の僕の仕事は、指定された人物の写真を
    特殊な携帯電話で撮り、ボスに送るだけの簡単
    な仕事だった。
     写真にはGPS情報と時間が自動的に添付され、
    証拠資料として裁判などで重宝されるのだ。

    ――――しかし、今回は僕の考えがあまかった。

     ターゲットは細身の女性ながら、足場の悪い
    山道をすいすいと突き進んで行くのだ。
     気付けば携帯電話は圏外、写真は後ろ姿で証
    拠能力はなし、そして、彼女を見失った。
     両足は棒のようになり、のどの渇きは限界だっ
    た。

    「しかたない、今来た道を戻ろう・・・。」

     よたよたと、数歩あるいた時、薄暗い樹海の
    片隅に、何かが光るのが見えた。よく見るとペッ
    トボトルの水であった。表面にはほどよい水滴の
    汗をかき、封も切っていない。

     ゴクリ・・・と、のどが鳴った。
     ペットボトルの底には、小さな手紙が貼り付い
    ていた。

    「追跡ご苦労様・・・。」

     セミの声が、より一層の圧力を増し心の中で反響
    していた。
     彼らの声が、僕の耳にはこう聞こえるのだ。

    「バレバレダー!バレバレダー!」

    「ビコウシッパイ!ビコウシッパイ!」

     悔しいが、その通りなので仕方がない。罵倒を背
    にし、重い足を前へと進めた。
     やっとのことで、携帯電話の電波が届く所までた
    どり着いた僕は、彼女の後ろ姿を送信した。

     白いワンピースに、ベージュのつば広帽、そこに
    黒髪がらせん状になびいている。
    「この人は僕より年上だろうか・・・。」

     初めて彼女のひととなりが気になったのだった。

                 つづく

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プチ小説 納涼探偵Pその4

by ま ぜんた

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        その4 聴衆の叫び

    ―――人間、あせれば焦るほど泥沼にはまる。

     僕は今、道に迷っていた。
     とある山中、樹海と言ってもいい。昼間な
    のに暗く、真夏なのに寒い。セミの声がサラ
    ウンドに鳴り響き、反射を繰り返しエコーする。

     僕は探偵社の仕事で、とある人を追ってここ
    に来た。
     今回の僕の仕事は、指定された人物の写真を
    特殊な携帯電話で撮り、ボスに送るだけの簡単
    な仕事だった。
     写真にはGPS情報と時間が自動的に添付され、
    証拠資料として裁判などで重宝されるのだ。

    ――――しかし、今回は僕の考えがあまかった。

     ターゲットは細身の女性ながら、足場の悪い
    山道をすいすいと突き進んで行くのだ。
     気付けば携帯電話は圏外、写真は後ろ姿で証
    拠能力はなし、そして、彼女を見失った。
     両足は棒のようになり、のどの渇きは限界だっ
    た。

    「しかたない、今来た道を戻ろう・・・。」

     よたよたと、数歩あるいた時、薄暗い樹海の
    片隅に、何かが光るのが見えた。よく見るとペッ
    トボトルの水であった。表面にはほどよい水滴の
    汗をかき、封も切っていない。

     ゴクリ・・・と、のどが鳴った。
     ペットボトルの底には、小さな手紙が貼り付い
    ていた。

    「追跡ご苦労様・・・。」

     セミの声が、より一層の圧力を増し心の中で反響
    していた。
     彼らの声が、僕の耳にはこう聞こえるのだ。

    「バレバレダー!バレバレダー!」

    「ビコウシッパイ!ビコウシッパイ!」

     悔しいが、その通りなので仕方がない。罵倒を背
    にし、重い足を前へと進めた。
     やっとのことで、携帯電話の電波が届く所までた
    どり着いた僕は、彼女の後ろ姿を送信した。

     白いワンピースに、ベージュのつば広帽、そこに
    黒髪がらせん状になびいている。
    「この人は僕より年上だろうか・・・。」

     初めて彼女のひととなりが気になったのだった。

                 つづく

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published : 2016/07/06

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