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プチ小説 納涼探偵 P その3

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プチ小説 納涼探偵 P その3

by ま ぜんた

  • iコンセプト

        その3 贖罪の魔法

     僕は、血に汚れた両手を洗いながら、涙した。

     人間は、わがままな生き物だ。「動物を殺すな」
    と言いながら、夕食には笑顔でステーキを食べる。
     そこに贖罪の心は、ひとかけらも無い。
    「グウウ・・・。」
     それでも人は腹が減る。
     一人暮らし。自炊をする独身男にとって、空
    腹を無視する事は死に直結する。
     探偵という職業は、食事のタイミングも難し
    いのだ。

     僕は冷蔵庫から卵を二個取り出し、手早くかき
    混ぜフライパンに流し込んだ。
    ジュワワッと、爽快な音が鳴り響いた。
     不思議なものである。食事の準備をしていると、
    時の流れがスキップを始めたような感覚がある。
     固まりつつある卵の上に、スライスチーズを一
    枚載せて包み込み、皿に移した。
     その上に、ソースとマヨネーズを音波グラフの
    ように細くかけて行くと完成だ。 

    「いただきます。」
    箸を両手にはさみ、命への感謝を捧げる。
     僕の食事は、簡素である。ちぎったキャベツ、
    レンジで温めたごはん、レトルトの味噌汁、そし
    て卵焼きである。
     栄養のバランスを考え、食後に野菜ジュースを
    飲む。

     冷えた野菜ジュースを直接胃袋に流し込む。至
    福の瞬間である。

    ――――と、その時、不思議な事がおきた。
     体が浮いているのである。
     憑依とでも言うのだろうか。僕は、蚊になって
    いるのである。
     命がけで、人間の血を持ち去ろうとする蚊の心に
    トリップしたのだ。

     意識はしっかりしていた。しかし、この不思議な
    感覚には、どうにも抗えないのである。不思議への
    探究心と、快楽的な魔力があるのだ。

     僕は、心の赴くままに滑空し、人間のうなじへと
    向かっていく・・・。

     次の瞬間、人間はふり返り僕を叩き潰した。
     あまりの衝撃に、僕は野菜ジュースを吹き出した。

     白い壁いっぱいに広がった野菜ジュースは、赤かった。

                つづく。

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プチ小説 納涼探偵 P その3

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        その3 贖罪の魔法

     僕は、血に汚れた両手を洗いながら、涙した。

     人間は、わがままな生き物だ。「動物を殺すな」
    と言いながら、夕食には笑顔でステーキを食べる。
     そこに贖罪の心は、ひとかけらも無い。
    「グウウ・・・。」
     それでも人は腹が減る。
     一人暮らし。自炊をする独身男にとって、空
    腹を無視する事は死に直結する。
     探偵という職業は、食事のタイミングも難し
    いのだ。

     僕は冷蔵庫から卵を二個取り出し、手早くかき
    混ぜフライパンに流し込んだ。
    ジュワワッと、爽快な音が鳴り響いた。
     不思議なものである。食事の準備をしていると、
    時の流れがスキップを始めたような感覚がある。
     固まりつつある卵の上に、スライスチーズを一
    枚載せて包み込み、皿に移した。
     その上に、ソースとマヨネーズを音波グラフの
    ように細くかけて行くと完成だ。 

    「いただきます。」
    箸を両手にはさみ、命への感謝を捧げる。
     僕の食事は、簡素である。ちぎったキャベツ、
    レンジで温めたごはん、レトルトの味噌汁、そし
    て卵焼きである。
     栄養のバランスを考え、食後に野菜ジュースを
    飲む。

     冷えた野菜ジュースを直接胃袋に流し込む。至
    福の瞬間である。

    ――――と、その時、不思議な事がおきた。
     体が浮いているのである。
     憑依とでも言うのだろうか。僕は、蚊になって
    いるのである。
     命がけで、人間の血を持ち去ろうとする蚊の心に
    トリップしたのだ。

     意識はしっかりしていた。しかし、この不思議な
    感覚には、どうにも抗えないのである。不思議への
    探究心と、快楽的な魔力があるのだ。

     僕は、心の赴くままに滑空し、人間のうなじへと
    向かっていく・・・。

     次の瞬間、人間はふり返り僕を叩き潰した。
     あまりの衝撃に、僕は野菜ジュースを吹き出した。

     白い壁いっぱいに広がった野菜ジュースは、赤かった。

                つづく。

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published : 2016/06/29

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