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文学・文芸 > 小説
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Commentプチ小説という新たなカテゴリーの提案。
その2 死体の行方
――――後悔とは、時間に押し流され削除される。そして、新たな後悔が上書きされていくのだ。
赤い雲が窓のむこうを流れている。僕は昨日の出来事を思い返していた。
ただ、一匹の蚊が子孫を残すために僕の血を吸って逃げただけだった・・・。
たそがれ時の優しい風が、昨日の自分を冷やし、反省をうながしてくれたのだった。
昨日の夜、僕は自分を刺した蚊に腹を立て部屋中を探し回ったあげくに、蚊取り線香に火を放った。
ただ火を放っただけではない、あの渦巻をポキポキと折り、何と六ヶ所に発煙させる、という暴挙にでたのだ。
そうして、僕はといえばリビングのソファーで何食わぬ顔で熟睡したのであった。
苦しみもがく蚊の姿が脳裏を過ぎった。
せめて死体を捜し、土に帰してやろう・・・。そう思い、部屋の中をくまなく捜した。
――――しかし、一時間捜しても見つからなかった。
そのうちに、一つの事実に気が付いた。
右のふくらはぎが痒い、ということだ。
「まさか、ありえない。」
あの、毒の煙の中で生き延びるなんて・・・。
しかし、右のふくらはぎは、みるみる腫れだし痒みも増していた。よく見ると、二か所刺されていた。
昨夜の感情が再び渦を巻いた。今日こそ叩き潰す、リベンジだ。
そして、推理をめぐらした。
ゆうべ、リビングでは一度も刺されなかった。しかし、この部屋では生存不可能、そして、刺されたふくらはぎ・・・。
そうだ、奴はゆうべ、別の部屋にいたんだ。小さな部屋に閉じこめられていたんだ。
「そう、トイレだ。」
たしかに奴はそこにいた。僕の血を腹にためこみ、重い体を持て余しゆっくりと浮遊していた。
「人間は、トイレでは無防備だ。そこに付け込んで二か所も・・・。」
パンッ。
――――小さな血しぶきが舞った。
つづく。
プチ小説 納涼探偵 P その2
by ま ぜんた
プチ小説という新たなカテゴリーの提案。
その2 死体の行方
――――後悔とは、時間に押し流され削除される。そして、新たな後悔が上書きされていくのだ。
赤い雲が窓のむこうを流れている。僕は昨日の出来事を思い返していた。
ただ、一匹の蚊が子孫を残すために僕の血を吸って逃げただけだった・・・。
たそがれ時の優しい風が、昨日の自分を冷やし、反省をうながしてくれたのだった。
昨日の夜、僕は自分を刺した蚊に腹を立て部屋中を探し回ったあげくに、蚊取り線香に火を放った。
ただ火を放っただけではない、あの渦巻をポキポキと折り、何と六ヶ所に発煙させる、という暴挙にでたのだ。
そうして、僕はといえばリビングのソファーで何食わぬ顔で熟睡したのであった。
苦しみもがく蚊の姿が脳裏を過ぎった。
せめて死体を捜し、土に帰してやろう・・・。そう思い、部屋の中をくまなく捜した。
――――しかし、一時間捜しても見つからなかった。
そのうちに、一つの事実に気が付いた。
右のふくらはぎが痒い、ということだ。
「まさか、ありえない。」
あの、毒の煙の中で生き延びるなんて・・・。
しかし、右のふくらはぎは、みるみる腫れだし痒みも増していた。よく見ると、二か所刺されていた。
昨夜の感情が再び渦を巻いた。今日こそ叩き潰す、リベンジだ。
そして、推理をめぐらした。
ゆうべ、リビングでは一度も刺されなかった。しかし、この部屋では生存不可能、そして、刺されたふくらはぎ・・・。
そうだ、奴はゆうべ、別の部屋にいたんだ。小さな部屋に閉じこめられていたんだ。
「そう、トイレだ。」
たしかに奴はそこにいた。僕の血を腹にためこみ、重い体を持て余しゆっくりと浮遊していた。
「人間は、トイレでは無防備だ。そこに付け込んで二か所も・・・。」
パンッ。
――――小さな血しぶきが舞った。
つづく。
published : 2016/06/29