岡田千夏

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京都府京都市

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  • 旅先の猫②

     旅行の二日目は、朝、湯の山温泉からロープウェイで御在所岳へ登った。爽やかに晴れた気持ちのいいお天気で、ロープウェイの高みから見下ろす山の斜面は、黄緑や薄緑などさまざまな明るい緑色の木々で隙間なく覆われた森だった。
     山ツツジがちらほらと咲く山頂周辺を散策したけれど、標高1200メートルを越える山の上で、さすがに猫は見なかった。

     そこから、甲賀にある忍術村へ行った。鈴鹿山麓の原生林の中に作られた野趣あふれるテーマパークで、山門をくぐって山道を少し行くと、忍者のからくり屋敷や、手裏剣道場、忍者の博物館などがある。前日の鈴鹿サーキットのモートビアなど、安全管理が徹底された遊園地とは対照的なところである。たとえば水ぐもの術を修行する池。池の片方から他方へロープが一本渡されていて、その下に、足に履く浮き輪みたいなものがふたつ浮かべてある。それらを使って、池を渡るのである。監督するスタッフは誰もいない。チャレンジしたい者は、各自、自己責任で勝手にやる。簡単なようで、意外と難しく、池に落ちる人も結構いるらしい。「昨日は落ちてずぶぬれになった人がたくさんいたからね」と忍者の貸衣装屋のおばさんは事も無げに言う。池の両岸に足を拭くためのタオルが、泥だらけになって無造作においてあるのも面白い。
     お昼をだいぶ過ぎていたので、食事が出来るらしい「霧隠荘」というところを探して、案内図を頼りに林の中を歩いていくと、誰もいない少しひらけた空き地の真ん中に誰かが使ったあとのバーベキューの道具が片付けられずに置いてあって、私たちが近づくと、お皿の横から何か黒っぽいものがするりと逃げていくのが木のあいだから見えた。
     野生動物かと思ったけれど、猫だった。黒猫が、狭い空き地の向こうの「霧隠荘」という看板の掛かった、バラック小屋のような建物の中に逃げ込んでいった。覗いてみると、「霧隠荘」が営業していないのは明らかで、なべや調理道具の棚が並んだ細長い通路を、さっきの黒猫と、もう一匹、白黒の猫が走っていった。
     二匹の猫は、建物の反対側から外へ出て、「霧隠荘」の裏へ逃げていった。入れ違うように、建物の影から一匹の茶トラが姿を現した。先の二匹とは反対に、私たちを見に来たみたいだった。斜面になった林の地面の高いところに腰を下ろして、涼しげな顔をしてこっちを見下ろしていた。

     最後にもうひとつ、猫そのものではないけれど、宿泊した旅館の仲居さんは感じのいい若い人だったが、帰り際に、息子がリュックにつけていた猫の缶バッジがきっかけで、猫好きな人であることがわかった。玄関から駐車場まで、深い緑の庭を通っていくあいだ、猫の話をした。どんな柄かは聞かなかったけれど、寮で一匹飼っているらしい。その仲居さんの元へ来る前に、どこかで虐待を受けた猫で、そのせいかとても甘えん坊だという。「履歴書の扶養家族のところに、ちゃんと『一匹』って書いてますよ」と仲居さんはさらりと言った。不幸だった猫が幸せになれてよかった。不幸な猫を幸せにした、そんないい人に出会えてよかった。

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  • 旅先の猫①

     このあいだの土日に、三重県の鈴鹿方面へ行ってきた。土曜日は鈴鹿サーキットで遊んで、湯の山温泉で一泊し、次の日曜日の朝、御在所岳にロープウェイで登ってから、甲賀の忍術村へ寄って帰ってきた。
     旅先で出会った猫たちを、並べて書いてみる。

     鈴鹿サーキットの遊園地「モートピア」にいた猫。人通りの多いメインストリートから外れた、裏の小径を歩いたとき、曲がりくねった道のカーブの向こうを黒猫が横切った。道の両側には大きく伸びたつつじの木が並んでいて、その赤い花の下に黒猫は潜り込んだ。小柄な黒猫で、まだ子猫のぎこちなさがうしろ姿に残っていた。
     ぐるりと曲がった下り道を降りて見上げると、芝生の斜面のつつじの木の下に、黒猫がちょこんと座ってこっちを見ていた。たくさんの人が訪れる遊園地の中なので、食べ物には不自由しないだろうと思う。あるいは、その小径はレストランの建物の裏を通っていたから、誰かご飯をあげている人がいるのかもしれない。

     夕方、鈴鹿から、宿泊するホテルのある御在所岳の麓の湯の山温泉まで移動した。道路わきにぽつぽつと立った田舎らしい民家の砂利を敷いた庭に猫がいた。家の人も庭に出て立ち話をしているその横で寝そべっているのが一匹、車の下で猫座りしているのが一匹、さらに奥の玄関前の敷石の上で丸くなっているのが一匹いた。
     道は少し混んでいて、車はスピードが出なかったから、その家の横をゆっくり通った。だいぶ日は傾いていて、その人たちや猫たちを、夕日が側面から照らしていた。

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