Tome
CREATOR
Tome
メインはコメント、音楽はBGM、イメージ画像は題字、URLはオマケ。 Tome(トメ)は少年時代のニックネーム。 絵筆投げ、作曲に挑戦中。 ...
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影 絵

 

  毛糸の帽子をかぶり
  毛糸のマフラーを首に巻く。

  寒い冬の晩だった。

  猫になって家を出て
  犬になって夜道を歩いた。


  途中、路上駐車のクルマから小銭を盗んだ。

  深い意味はない。
  盗めるから盗んでみただけ。


  やがて、家のシルエットが見えてきた。
  同じ中学に通う女の子の家。

  垣根はなく、わけなく庭に忍び込めた。
  裏庭に立ち、二階の窓明かりを見上げる。


  カーテンに人影らしきものが映っていた。
  いくら待ってもほとんど動かなかった。

  あれは彼女の影ではなかったかもしれない。
  人影ですらなかったかもしれない。

  そもそも彼女の部屋がどこなのか
  僕は知らなかった。


  でも、その動かない影を
  いつまでも見続けた。

  雪が降り始めても
  寒さは感じなかった。



  もう二度と見ることはないだろう。

  あんなに夢中になった影絵。

 

彼女のこと

 

彼女は美人だった。九つ年下だった。
スタイル良くて、背は高くて、胸が大きかった。

本物のモデルさんみたいだったから
モデルみたいだね、って言ってやった。

ちょっとおかしなコだった。
ううん。すごくおかしなコだった。

あの日、初回だけ無料のチラシに釣られて
道楽でやっていた僕の店に来てくれた。

遊ぶのが好きで、毎日会いに来てくれた。
お金がなくて、もう来れないと言うから

君ならタダでいいよ、とあわてて伝えた。

ホントは、こっちから払ってでも
お願いしたいくらいだったけど。

碁を教えてやった。
あまり上達しなかったけど、諦めなかった。

オセロもやった。トランプもやった。
ビリヤードだってやった。

一緒に飲んだりした。
彼女は、すぐに酔っ払って眠ってしまう。

叩いても覚めなかった。
スキだらけだった。信じられなかった。

似顔絵を描いてやった。
マッサージもしてやった。眠ってもやめなかった。

彼女は子どもの頃、お嬢さんで
ピアノなんか習っていたらしい。

「エリーゼにために」をシンセサイザーで
弾いてくれた。上手だった。

でも、カラオケ屋に行くと
彼女はわかりやすい音痴だった。

暑い日、冷麦を作ってきてくれた。
おいしかった。うれしかった。

手の形があまりきれいでなかった。
それを彼女は気にしてた。

脚は長いのに、彼女はスカートがきらいで
破れたGパンばかりはいていた。

いつか頼んでおいたら
仕事の帰りにスカート姿で来店してくれた。

スカートは似合わない、とぼやいてたけど
たしかに平凡だった。

パソコンが生きがいだ、って言ってた。
ケータイがきらいだった。

彼女は高校を中退して、大検を取っていた。
意外に、少し人見知りをした。

彼女とワインの口移しなんかした。
ふたりとも裸になるまで野球拳をした。

一緒に市民プールで泳いだ思い出。
なんと彼女、スクール水着だった。

七夕には、彼女のクルマに乗り
一緒にササを採り、一緒に店に飾った。

自宅に来てもらったり
彼女のアパートに行ったりもした。

時々、彼女は派遣の仕事をした。
ラーメン屋の手伝いもした。

子どもの頃の写真を見せてくれた。
家族の写真も見せてくれた。

ある日、妹さんの家族を紹介された。
なんだか不思議な気がした。

キリがないけど、彼女がいてくれて
本当にいろんなことがあった。

誰にも言えないようなことも
誰にでも言いたいようなことも。

楽しかった。本当に楽しかった。
永遠に続くみたいだった。

でも、最後には、彼女を悲しませ
カレシを怒らせてしまった。

そう。彼女にはカレシがいた。
同棲していた。はじめからそうだった。

はじめから彼女でもなんでもなかった。
夢を見てただけらしい。

とりあえず母親の家へ身を寄せる、と
彼女は小声で言った。

父親ではない男がいる家。
彼女が望んだ結末ではなかった。

電話番号を教えてもらったけど
もうそこにいるはずもない。

それに、こちらから彼女に
電話できるわけがなかった。

あんなひどいことをしたんだから。
悔やんでなんかないけど。

もう会えないだろうけど
彼女は本当に美人だった。

本当に、それこそ本当に
本物のモデルさんみたいだった。

 

錦鯉の話

 

昔、小学校で映画の鑑賞会があった。
錦鯉の話で、粗筋は以下の通り。


 
主人公の少年の家は錦鯉を養殖していた。

稚魚が成長して美しい模様を備えれば
錦鯉として高く売れる。

しかし、つまらない模様の鯉は

「テンプラ」と呼ばれ
売れないので天ぷらにされて食べられてしまう。


小さな黒い鯉がテンプラにされそうになった時

責任持って飼うから自分にくれ

と少年は父親にせがむ。


そして、少年は
この落ちこぼれの黒い鯉を飼うことになる。


途中、育てるためのさまざまな苦労があるのだが

ある日のこと、かなり大きくなった黒い鯉の背中に
一本の赤い筋が走っているのに少年は気づく。

暗闇を刀で切り裂いたような真紅の一筋。


このテンプラになるはずだった黒い鯉は
やがて錦鯉の大きな品評会で

最優秀の評価を得ることになる。

 

細部は忘れてしまったが
いい話だなあ、と今でも思う。

 

ラジオ体操の聖火

 

小学生にとって楽しいはずの夏休みの日々は
つまらないラジオ体操から始まるのだった。


朝早く起こされ、近所の広場に集められ
ラジオから流れる演奏と掛け声にあわせ

体を動かして、なにが楽しいのか。
カードにスタンプもらって、なにが嬉しいのか。


それはともかく
忘れられない奇妙な思い出がひとつだけある。


ラジオ体操が始まる少し前
僕たちは農協のシャッターを背に立っていた。

眼前には田園風景が広がっていた。
その上には空があった。

空にはいくつかの雲が浮かび
そのひとつの雲が太陽を隠していた。

太陽が徐々に昇り、雲の上から顔を出すか
という瞬間、太陽が炎となって燃え上がった。

丸めたティッシュペーパーに点火した感じ。

太陽の直径の2倍くらいの高さまで炎が上がり
メラメラと聖火台の聖火さながらだった。


みんな、ワアワア騒いだ。

焼けるような熱さ(「暑さ」ではない)で
直射日光が顔面を照らし、火傷しそうだった。


時間にして、わずか5秒間くらいだったと思う。

すぐに太陽はありふれた朝日になり
僕たちはラジオ体操なんか始めてしまい

「なんだか変な夢見ちゃったな」と

小学生のありきたりな夏休みの一日に
溶け込んでしまったのだった。



あれは、なんだったのだろう。

気象に詳しい方なら
なにか心当たりがあるのではなかろうか。

 

遊園地の姉妹

 

上京したばかりの頃、週に土日だけ
浅草の遊園地「花やしき」でアルバイトをした。


その日は、「バスケットボール」の担当だった。

三個のボールをゴールに投げ込むと
ゴールした数により賞品がもらえる。

あまり人気のないコーナーだった。


幼い姉妹が近寄ってきた。

「これ、どうやって遊ぶの?」

質問に対して親切に教えてやった。
なにしろ暇なのだ。

「ふーん」

どうやらゲーム券を持ってないらしい。

「いいよ。ただでやらせてあげる」
「ほんと?」

「うん、本当」

なにしろ、他に客がいないのだ。

「どうぞ」

ボールを渡してやると、妹が礼を言う。

「おじさん、ありがとう」

さすがにショックだった。
とりあえず、まだ十代の青年だったから。

そんなこと気にもせず、姉妹はボールを投げる。

こっちは床に落ちたボールを拾い
それを彼女たちに一個ずつ差し出す。

なかなかゴールに入らなかった。

「あっ、入った!」
「あっ、また入った!」

やがて偶然ながら、三個投げて二個入ったので
二等賞のマスコット人形を差し出す。

「おめでとう」

「えっ、これ、もらっていいの?」
「うん、いいよ」

なにしろ自分が損するわけじゃない。

「おじさん、ありがとう」

すぐに姉がフォローしてくれた。

「おじさんじゃなくて、おにいさんよ」

さすが年上だけのことはある。

「おもしろかった」
「よかったね」

「じゃあね、バイバイ」
「バイバイ」

姉妹は向こうへ行ってしまった。

なかなか楽しかったな、と思う。
それに、なかなかかわいい姉妹だった。

ふたりが大人になったら、どんなふうになるんだろう。
今のことを覚えていてくれるかな。

そんなことをぼんやり考えていた。
なにしろ暇だったから。


しばらくすると、女の人がやってきた。

「どうもありがとうございました」

なんだろうと思ったら
ちょっと離れたところに、あの姉妹もいる。

どうやらふたりの母親らしい。

「これ、どうぞ飲んでください」

缶ジュースを差し出すのだった。

「どうもすみません。いただきます」

姉妹に手を振ってやる。笑ってる。

缶ジュースをしみじみと味わって飲んだ。



なんということもないけれど

自分にとっても彼女たちにとっても
いい思い出になったのではないか、と思う。

高原の花火

 

  深夜、こっそり家を抜け出た。

  中学の同級生数人と待ち合わせ
  みんなで地元の高原に登った。


  仲間のひとりが見慣れぬ避妊具を持っていた。

  夜の高原で女の子に出会うかもしれない。
  そんなことを想像していたらしい。


  高原へ続く真っ暗な山道は、当然ながら
  女の子どころか、雌犬一匹さえいなかった。


  歩きながら、色々なことを喋った。

  教室では話せない話題だったはずだが
  どんな内容か、もう忘れてしまった。


  高原の上、展望台の下で、焚火をした。

  焚火を囲み、やはり色々なことを喋った。
  当時の流行歌とか合唱したかもしれない。


  その時、まったく突然、焚火が爆発した。


  みんな驚いた。わけがわからなかった。

  けが人はいなかったが、危なかった。 
  見ると、ズボンに穴が空いていた。

  学生服は石炭からできているんだよな
  などと思ったことを憶えている。


  調べてみると、どうやら焚火の熱で
  乾電池が爆発したらしい。

  それらしき破片があった。

  なぜ乾電池が焚き火の中に入っていたのか
  いくら考えてもわからなかった。

  仲間の誰かが捨てたのかもしれないが
  あの時、誰も名乗り出なかった。


  みんな軽薄で危険な年頃だったのだ。


  あの高原での爆発だって、花火みたいで
  いくつもの楽しい思い出のひとつだ。

 

サーカス

 

昔 サーカスが町にやってきた


大きなポスターが町中に貼られ
大きなテントが丘の上の公園に張られ
騒がしい音楽があちこちに響いた

トラの火の輪くぐり
お姉さんの空中ブランコ
巨大鉄球の内側を走りまわるオートバイ

ゾウはいたのだろうか
体の柔らかい美少女とか

いなかったはずのないピエロさえ
今はもう 思い出せない


昔 サーカスが町にやってきた

 

山頂の城跡

 

少年時代の終わりの夏だった。


ひとり、城跡へ続く山道を歩いていた。

城跡といっても、山頂には形跡すらない。
立て札がなければ誰も気づかないだろう。


山頂に着いたら裸になるつもりだった。
山菜採りの季節でもなければ人はいないのだ。

身軽でいたいので、荷物は縦笛一本だけ。
城跡で吹いてやろう、と思っていた。

つまらないことが楽しみな年頃だったのだ。


そろそろ山頂が見えてくる場所だった。

林を抜けると、日差しがまぶしかった。
そう。麦わら帽子をかぶっていた。

その時だ。ふと途中で立ち止まった。


なにかに驚いて、あたりを見まわした。

草木が茂り、緑豊かな大地が続く。
見上げれば、どこまでも青い大空。

そして、自分がここにいる。

今この瞬間、気づいた。


感動して、ぼろぼろ涙があふれた。
ひざまずき、地面を撫で、草をつかんだ。

信じられないくらい嬉しかった。
なにか大声で叫んだ記憶も残っている。


ときどき、あの時のことを思い出す。

断言できる。素晴らしい体験だった。
なのに、どうしても思い出せないのだ。


あの時、なにを気づき、なにに感動したのか。

 

洗礼の雨

 

  試合に負け、その日の帰り道だった。


  体がだるく、疲れていた。頭痛もひどかった。

  それにしても情けない試合だった。
  自己嫌悪で気が滅入る。溜息ばかり。

  見上げると、空模様まであやしい。

  ポツリと冷たいものが額に当たった。
  手にも頬にも鼻にも次々と当たった。

  稲妻が走り、雷鳴が轟いた。雷雨だ。

  傘など持ってない。まだ家は遠い。
  とことん運が悪い。まさに土砂降りだ。

  そういえば、そんな天気予報があったか。
  しかし、いまさら遅いよ。

  濡れるしかないなら、濡れるしかない。

  瞬く間に髪も服もびしょ濡れになった。
  激しい雨音と雨の感触を全身に感じる。
 
  こんなの久しぶり。懐かしいくらい。

  なぜだろう。なんだか楽しい。
  不思議だ。わくわくしてくる。

  頭痛も消えてしまった。
  思わず笑ってしまう。歌ってしまう。

  これだな、と思った。生きてる感触って。



  なんだか嬉しかった。まだ家が遠くて。

 

竹やぶ

 

近所の神社を囲むように竹やぶがある。

市の保護指定を受けているだけあって
さすがに並の竹やぶではない。

竹の柵に続いて、竹で組まれた門がある。
そこから中に入ると別世界が広がる。

雑木林と違い、寒いくらい静かだ。

重なり合った細い葉で日光が濾過され
幻想的な照明が淡く注がれている。

厚い落葉で地面は白っぽく覆われ
今にも竹が輝き、かぐや姫が現れそうだ。

竹取の翁のつもりになって竹やぶを歩く。

時間を止め、さ迷い続けていたくなる。
できれば竹の花が咲くのを見てみたい。

数十年ほど待たねばならないだろうが。

正直、ここから出てゆきたくなかった。
だが、それは許されるはずもない。

竹の茎に触れて、服の袖が白く汚れた。
この表面の白い粉はなんなのだろう。

昔話の浦島太郎じゃないけれど
頭が触れたら、白髪になったりして・・・・


少し怖くなって、すぐに竹やぶを出た。

 
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